第12回
この章のまとめ
本章も今回が最後になりました。
顧客には三種類あります。簡単に分類すれば、直接顧客(患者・家族・提携先機関) 間接顧客(職員) まだ見ぬ顧客(当院に来ない地域住民、患者を送らない地域機関)です。それぞれの顧客ごとに求めるものが違います。
まず、間接顧客である職員が、ロイヤリティを持って働く職場を目指すことです。
多くの職員は、「患者のため」「地域住民のため」といった明確なミッションを持っています。そのミッションを満足する体制をつくることから始めます。「患者のため」という明確な目標を掲げ、日常業務の中で体験していくことが重要です。本来業務だけでそれを体験するには不十分です。そのツールにクレームを利用します。単なる初期対応では同じことの繰り返しで意味がありません。一つの患者の声を職種の枠を超えて検討し改善することで、患者目線の業務フローに近づきます。その過程で同じ問題を改善することにより、職員間で連帯感が生まれます。そして、改善できれば患者から称賛されます。つまり、モチベーションを高める3つの要素、ミッションの共有、連帯感、称賛という評価を実感できるのです。
一方患者について考えます。
①患者の期待について考えます。来院する患者の事前期待は単純です。不快な出来事を嫌うのです。まず、患者にとって不快なことや不便なことが発生していないかを調べることから始まります。
②不快なことを発生させないことを考え実行していくのです。万一発生した場合、そのファーストコンタクト(職対応)で解決する事です。そのことが解決できなくても誠意ある対応をすることが大切です。
③顧客の不満や不平の原因を見極めることです。
④表面化する不平や不満が少ないことを経営者層が理解することです。経営者層に届く1つのクレームは、同じような不満を持っている人の1~5%程度であることを理解し、そのほとんどが解決されないままか、現場職員の努力で解決されていることを自覚すべきです。
この循環を繰り返すことによって以下の効果が生まれます。
①顧客の離反を防止する。患者の減少だけでなく職員の退職率を下げます。
②良いクチコミが流れます。本文で紹介しましたが、紹介患者が増えます。それだけでなく、看護師同士の紹介入職が増加します。
③トラブルが減少することにより高いマージン率を確保できます。トラブルのための費用が減少します。
④採用コストや新患を増加させるためのコストが減少します。
⑤法的コストや保険コストの減少が図れます。
患者からの不平、不満、クレームは最初非常に小さく、取るに足らないことかもしれません。その小さな芽の下には非常に深い根が張っており、急速に成長します。その芽を刈り取るだけではまた新しい芽が出てきて、そのたびに摘んでいくことになります。それでは、まったく根本的な解決にはなりません。気を付ければ大きくならないもの、その都度対応すればよいという考えを改めなければなりません。なぜならば、病院の職員は、患者の「クレームに対応するため」に病院に就職したのではなく、「患者のため」に、「地域のため」にという考えをもって医療業界で働いています。クレーム対応こそが、それらの改善を職員が一緒に解決していくことが、顧客(患者、職員、提携機関)をつなぎ留め、収益を改善する最も効率的な方法であると私は信じています。
今後、クレーム対応の位置づけは、患者の不満を解消するのではなく、病院の重要なマーケティングとして位置づけなければならないと考えます。
次回からはクレームの原因の追求方法について事例を交えて皆さんと一緒に考えていきます。